介護リフォームで失敗する5パターン|使われなくなる手すりの共通点
介護リフォームには、他のリフォームにない難しさがあります。使う人の状態が変わり続けることと、使う人が自分で要望を言いにくいことです。
その結果、工事そのものは適切に行われたのに「結局使われていない」という状態が起こります。ここでは、実際に起きやすい5つのパターンと、着工前に防ぐ方法を整理します。
パターン1:手すりの位置が本人に合っていない
もっとも多い失敗です。工事としては正しく施工されているのに、本人が使わない。
原因はたいてい次のどれかです。
- 高さが平均値で決められている — 一般的な目安は床から750〜800mmですが、身長150cmの方と175cmの方で最適な高さは違います
- 麻痺のある側に付いている — 右片麻痺の方の動線に、右側だけ手すりがあっても使えません
- 立ち上がり用と移動用が混同されている — 立ち上がるときは体を引き上げるので縦手すり、移動するときは滑らせるので横手すりが適しています。目的が違えば形状も違います
- 端の処理がされていない — 手すりの端がまっすぐだと、袖口が引っかかります。壁側へ曲げ込む処理が必要です
防ぐ方法
現地調査のとき、実際に本人にその場所を歩いてもらう、立ち上がってもらう。これだけで大半は防げます。
可能であれば、ケアマネジャーか、リハビリを担当している理学療法士・作業療法士に立ち会いを依頼してください。身体の動きを見慣れている人の判断は、業者の経験則より正確です。
パターン2:将来を見越して先回りしすぎた
「どうせなら今のうちに全部やっておこう」という判断が、裏目に出るパターンです。
- 20万円の枠を一度に使い切ったが、半年後に状態が変わって別の場所が必要になった
- 車いすを想定して廊下を広げたが、結局歩行器のままだった
- 将来のために2階にも手すりを付けたが、そもそも2階に上がらなくなった
介護リフォームは、健常な人の住宅リフォームと違い、先回りが有効に働きにくいという特徴があります。身体状況は改善することも悪化することもあり、予測が難しいからです。
防ぐ方法
いま困っている動線だけを工事する。介護保険の20万円は複数回に分けて使えるので、一度に使い切る必要はありません。
「トイレまで行けない」「風呂に入れない」という具体的な困りごとを起点にすると、工事範囲は自然に絞られます。
パターン3:工事しなくてよいものを工事した
据え置き型の手すりや置くだけのスロープで解決できたはずのものを、工事してしまうパターンです。
| 工事した場合 | レンタルの場合 |
|---|---|
| 数万〜十数万円(20万円の枠を消費) | 月数百円程度(枠を消費しない) |
| 位置の変更に再工事が必要 | 動かせる |
| 不要になっても撤去費用がかかる | 返却できる |
| 賃貸では所有者の承諾が必要 | 承諾不要 |
とくに退院直後は、身体状況がもっとも大きく動く時期です。この時期に工事を確定させると、3か月後には合わなくなっていることがあります。
防ぐ方法
見積もりを受け取ったら、ケアマネジャーに**「これは工事が必要ですか、それとも福祉用具で足りますか」**と一項目ずつ確認してください。施工業者は工事を提案する立場なので、この質問は第三者にするのが適切です。
パターン4:段差を消したら別の危険が生まれた
段差解消の工事で起きやすいパターンです。
- スロープの傾斜が急すぎて、かえって危険になった — 見た目の段差は消えても、上れなければ意味がありません
- 床をかさ上げしたら、扉が床にこすれるようになった — 扉の調整費用が後から発生
- すのこを敷いたら、すのこの端でつまずくようになった
- 敷居を撤去したら、部屋の間で音や冷気が通るようになった
段差解消は「なくせばよい」という単純な話ではなく、なくした後の状態が安全かまで見る必要があります。
防ぐ方法
工事後の状態を、動線全体で確認すること。玄関から居室、居室からトイレ、居室から浴室という主要な移動経路を通しで見て、どこかに新しい引っかかりが生まれていないかを確認します。
パターン5:段差より先に照明を疑わなかった
これは工事の失敗というより、そもそも工事が不要だったケースです。
高齢者の転倒は、段差そのものより「段差が見えていないこと」で起きている場合があります。
- 廊下の照明が暗い
- 夜間にトイレへ行く経路に足元灯がない
- 段差と床の色が同じで、境目が視認できない
加齢により、若い頃と同じ明るさでは十分に見えなくなります。一般に、高齢者が同じ明るさを感じるには若年者より多くの照度が必要とされています。
防ぐ方法
工事を検討する前に、次を試してください。いずれも数千円程度で、工事は不要です。
- 廊下・階段・トイレの電球を明るいLEDに交換する
- 夜間の動線に人感センサー付きの足元灯を置く
- 段差の縁に明度差のあるテープを貼って視認できるようにする
これで解決するなら、20万円の枠を使わずに済みます。
着工前チェックリスト
工事を決める前に、次の6点を確認してください。
- 本人にその場所で実際に動いてもらったか
- ケアマネジャー(できればリハビリ職)に現地を見てもらったか
- その工事は福祉用具で代替できないか確認したか
- いま困っていることが起点になっているか(将来の想定だけになっていないか)
- 工事後の動線全体を通しで確認したか
- 照明の改善を先に試したか
まとめ
介護リフォームの失敗は、施工品質ではなく見立ての段階で起きます。共通する原因は次の3つです。
- 本人の動きを見ずに、平均値や図面で決めている
- 将来を見越しすぎて、いま不要なものまで作っている
- 工事以外の選択肢(福祉用具・照明)を検討していない
工事は元に戻せません。急いでいるときほど、本人に動いてもらう時間とケアマネジャーに相談する時間を先に確保してください。
個別の身体状況に応じた判断については、担当のケアマネジャー、理学療法士・作業療法士、福祉住環境コーディネーターにご相談ください。